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知人と研究?

 

先週末は、以前に何度か研ぎ講習を受けて頂いた方が、自宅へ御越し下さいました。鮮魚関連の方なので、御土産も其れに関する物を頂きましたが、焦眉の急?は「包丁を研いだ後の食材への匂い移り」でした。

巷間で実(まこと)しやかに広まっている、調理の直前に研いだ包丁では切られた食材が鉄臭くなる、と云うのは本当か?が気に成って居ました。其れなら、実験してみようとの御誘いで、当日は刺身で試す事に。御土産とは別に、其方の素材も持参頂きました。

 

 

 

因みに私は普段、魚介類は多数派と迄は言えない食生活ですが、偶には摂る様にしています。下画像は、鰆の切り身が有ったので霜降り(湯霜)した後、酒で溶いた味噌の付けて置き、焼く直前で柚子を加えました。酒が旨味豊富な物でしたので、味醂は無し。イメージとしては、幽庵焼きの変形です。

 

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下は、普通に赤鰈の煮付けです。酒と醤油のみ使用。

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さて、試食用として俎上に上がったのは、1キロ少々だったという穴子。刺身に引くのも御任せしました。私は刺身で穴子は初かも知れません。使用した包丁は、まだまだ形状を整えつつある私の司作柳です。

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途中、敢えて天然の仕上げ砥石で研ぎ直します。事前に研いで置いた状態と比べる為です。

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砥いで置いた状態での刺身・砥いだ直後での刺身。食べ比べてみた結果は、殆ど遜色ないと云う感想で一致しました。食味的には、部位による脂の乗り方・身幅の違いから来る切り方の違いと思われる差は感じましたが。

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後半は、私の小さな柳(まあイカ割きですね)を使用しての比較です。此方は人造仕上げ砥(三十年ほど前のキングの8000番)で砥いで置いた状態と、研いだ直後の差を感じられるかどうか。

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結果は此方も、特筆するべき顕著な差は現れず。前述の原因によると思われる、食味の僅かな違いは有れど、匂いに鉄臭さの強弱は感じられず。

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今回は特に「刃先(3~4mm)と裏押しによる切れの回復を図った研ぎ」が鉄臭さを誘発するのか?を試してみたのですが、事前の予想を遥かに下回る影響しか出ないのではと結論付けました。

あるいは、切り刃全面の研ぎ・もっと荒い砥石の使用、であれば大きな差として現れる可能性も有りますが、其処まで調理直前に本格的な研ぎをする事は考え難いので、現実的なお手軽研ぎに絞っての簡易テストとしました。

その範囲に於いてでは有りますが、上記の条件では殆ど杞憂と言って差し支えないのでは無いか。そんな事を話し合いながら、二人で全ての穴子を平らげたのでした。山葵醤油よりも市販の拘りポン酢・お気に入りの醤油+柚子かスダチの系統が御薦めです。

 

 

 

パンドカンパーニュやバゲットは、切る練習にも適しています。硬い外皮(特に焦げ)に弾かれたり上滑りする事無く短いストロークで切り終える。勿論、力押しでへしゃげさせてもダメで、外側の硬い部分全周に艶が出ると成功です。

序でに、上記のフランスパン切りでも楽しんで貰いました。

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御土産で頂いた太刀魚は、太い部分を塩焼きに。細い部分は切りかけで刺身に。

先ずは出刃では無く、手入れが必要に成って来ていた三層利器材の三徳で。

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何処かで見かけた情報でしたが、太刀魚の骨からは良い出しが出るとの事で。軽く炙ってから試してみました。

確かに鯛の骨などとは又、違った味でしたが其の風味から何故か、アサリの出汁を連想しました。うまみ成分の比率か、香りの所為なのか分かりませんが、面白い感覚でした。例えるなら、筍ととトウモロコシ・タラの芽と海苔みたいな。

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S様には、楽しい実験に御誘い頂き、美味しい御土産まで頂きまして恐縮です。又、来ますとの事でしたので、御来訪を楽しみにして居ります。整理整頓できていない環境で御不便をお掛けしましたが、有意義な時間を有難う御座いました。

 

 

 

 

 

最近の砥石と考えた事

 

少し前に、舞鶴まで砥石の選別に同行する機会が有ったのですが、期せずして最新の(しかもマニアックに拘り尽くした)人造砥石・その設計思想にも触れる機会と成りました。

勿論、自分でも性能に満足し、使い勝手を気に入って使って来た最重要視している砥石の出元でも有るので、並で無いのは想定の範囲内でしたが。現状は更に製作者の病状が悪化、いや向上心が青天井でした。

会話の内容の詳細は省きますが、最新の人造仕上げ砥石の到達したレベルと先々の可能性に端倪すべからざる物を感じました。普通に良いとされる天然砥石・或いは其の使い方では、瓦に伍する事が困難に成る未来が見えた・・・と言うか、既にそうなりつつあるのかも知れませんね。(一般の方々の意識では既に相当な過去から、そうなっていたのかも知れませんが・・・まあ段階は其々)

当然、私もコスメティックな目的と言うよりは、性能を求めて天然砥石の上物を求め・使用して来たので切れ(汎用性の高い掛かり)と永切れ(人造・ペーパー・荒砥に数倍する)での結果に納得するまでテストした上での天然仕上げ砥石の採用でした。

では、今回の舞鶴行きで宗旨替えをしたのか?と聞かれれば、NOです。少なくとも、今現在は天然の性能を凌駕する人造砥石を丁寧にテストするまでは保留です。もっと厳密に言えば、何処まで行っても性能差としてでは無く、飽くまでも違いとして現れるのでは無いかと感じました。

先に記した、性能の一端は切れ・・・一発勝負の最鋭利な性能が主。永切れは従・・・ですが、私は此れに拘っています。何故なら、道具であるからには使われている時間が本来であり、整備の時間は無駄、とは言いませんが短いに越した事は無い。おまけに、長く切れるなら研ぐ回数・時間も少なくて済み、減りや買い替えの心配も減る理屈です。

一発の切れは、之までも天然を凌ぐ場合を理解していました。例えば削ろう会などですね。しかし同時に、永切れでは天然に分があるとも。切れの性能維持は、人造が2~3回の使用で低下するのに対して、天然は4~5回の仕様に耐えると直に聞いた事が有ります。飽くまでも、性能が拮抗している上に、研ぎの上手が調整した事が前提でしょうが。

原因としては、天然の研磨成分では削れない成分が金属組織中に存在する事・した場合でも、人造であれば研磨が可能だから、と成ります。対して、研磨が困難な成分が削れない天然であれば、耐摩耗性の高い成分が多数、残存する・・・結果として研磨面は、より耐摩耗性が高い状態に成る。

今回は、その天然の売りとも言える永切れにも迫る可能性を示唆して貰った訳ですが・・・此処から先は、自分的には不確定要素(テスト前)があるので、保留。しかし、前述の内容が現実の物に成ったとしても(いや、疑ってはいませんが)、或る一点の疑問が残る為に、人造への完全な鞍替えは否定的かなと感じました。

 

 

さて、(前段は前振り?)本題にも関係する内容に触れて行きますが・・・例えば大工道具は案外、「バラツキ」(鋼材の種類・熱処理等々)が少ない分野かも知れませんが、包丁などは玉石混淆と言わざるを得ません。ナイフ等もそうですが、包丁に向いていない・刃物用として開発されていない各種金属も普通に使われています。尚且つ、使用者(消費者)の使用・メンテナンス技術や経済観念に応じて多種多様な仕様に仕立てて有ります。

従って、金属組織の特性や熱処理後の変化次第で研ぎ方・研ぐべき方向性(研ぎ目の細かさ・研ぎ目の形状・或いは極限までツルツル?)も違って来ますが、人造砥石の種類は其々の特徴を引き出すのに充分でしょうか、そうとは思えません。逆に考えると、少ない種類で全般に対応可能であるならば其れが最高かも知れませんが・・・私の経験では、研削力・研磨力に優れる人造は鋼種・熱処理の如何を問わず、一律に砥ぎ下ろしてくれる物が多かったです。

一律に仕上げてくれた上で結果として、組織の荒い・焼きの甘い刃物も、細かい組織・確り焼かれた刃物と同様に砥ぎ上げて呉れるならば万々歳なのですが・・特に鋭角に研がれた刃先では、ヤワな刃物の永切れは期待外れな事が大半。切れに関しては耐久力(硬さ・応力への抵抗)次第と成りますが、物理的に鋭角であれば切れますので、充分な効果を発揮してくれます。自慢の研磨力の面目躍如といった所ですね。

しかし、天然砥石であれば一律に永切れに優れるとも行かないのが難しい所です。まあ、滅多に優れない物は無いのですが(外れは別です)、其々の鋼材・熱処理・他には研ぎ手によって差が有ります。人造と違って(人造も思うよりは焼き加減などバラ付いてますが)合う・合わないが面倒と言える反面、相性が良ければ持てる個性を引き出す・スペック以上の結果を付与できる可能性も有ります。

例えば、荒い組織の刃物に硬くて細かいだけの砥石を掛けても、刃先に現れる組織由来の荒さを見かけ上、面取りするだけに終わるかも知れません。しかし、砥粒の積層の向き・緻密さ・成分により荒さを活かした結果になる可能性が有ります。例えば、荒いギザの一つ一つに、より細かいギザギザ・セレーション的な波を形成する等。

そう言った意味から、私は刃先の処理に天然を多用して来ましたが、其れと同等以上に重視して来たのが刃体の形状です。或る意味で刃先1mm(本当は0.数ミリ?)の切れが勝負と言えそうな剃刀や鉋に対し、ナイフや包丁が相手にするのは圧倒的な厚みを持つ対象物です。まして、繊維質・粘弾性をも持っている場合が大抵。それらを削る・切断するならば、切削の最中は刃体の側面を対象が接触しつつ移動して行く事に成ります。当然、表面の形状や粗度が抵抗に影響しますが、最も重視するべきは平面・凸面・凹面の違いでしょう。

尚さんとの遣り取りでも、包丁等に関しては刃先限定の切れもさる事乍ら、形状の重要性にも言及されていました。其の指摘は私の認識とも共通する部分が多く、流石に理解が多岐に及んで深いと感じました。其れを踏まえた現状での自分の研ぎは、いつも記載している通りで刃元~切っ先にかけて、鈍角から鋭角への変化。切り刃・小刃は刃先へ向かって徐々に鋭角に・最先端へ向かう最終部分は徐々に鈍角に・・・です。

あと、仕上げ砥石が荒砥・中砥よりも鋭利で永切れするのは、刃先の仕立てが最小(先端のRが小さい)で最大(ギザの山が小さくて多い)になる事。前者は横方向の幅が狭い・後者は刃線上の面積が大きい事を意味します。此の逆では鋭利で無く、角度が同一なら摩耗も速くなりますね。接地する部分が少ないと、削れ易いですから。

あ、万が一あらゆる項目で天然を超える人造が先々に出て来たならば、天然砥石で無く人造砥石を主力に代える可能性は、ゼロでは有りません(笑)。

 

 

 

 

それでは、近い質の天然砥石でも仕上がりに違いがある具体例として、試し研ぎをしてみます。本当は、自作の切り出しに一部、錆が出始めていたので手入れを兼ねてです。あとは、天然砥石に興味をお持ちの方への参考に。

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左の二つは以前からの所持品。右は最近入手の物。何れも、奥殿産の巣板の茶色。硬さで言えば、上二つは同等で硬口。右下は僅かに柔らかく、左下は中硬。粒度は全て、細か目です。

 

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自作の切り出しを加えてテスト。此方の刃金は白紙二号を使って居ます。

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奥殿の天井巣板、軟口・やや荒目で準備。

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何時もの切り出しでも、準備です。此方の刃金は、青紙(恐らく二号)です。

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自作切り出し+新品の薄い巣板

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何時もの+新品の薄い巣板

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自作+新品の厚目巣板

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何時もの+新品の厚い巣板

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自作+厚い巣板

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何時もの+厚い巣板

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自作+中硬巣板

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何時もの+中硬巣板

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画像で見ても、余り顕著な違いは見出せないかも知れませんが、基本的に硬くなるに従って、曇り気味⇒光り気味になって行きます。そして、切れも其れに比例する傾向に有ります。例えば、押し引きしなくても押し付けるだけで切り進める・切る際の荷重が少なくて済む・・・と変化します。

しかし、再三記載している通り、必ずしもそうとは限りません。例えば今回でも、新品の厚目までは両方の切り出しで切れが向上して行きました。しかし、手持ちの厚目では僅かに差が出ました。いつもの切り出しが若干ですが劣ったのです。一方、自作切り出しは新品と殆ど遜色無し。砥石の研ぎ感・研磨の進み方は殆ど差異が無かったので、相性としか言えないと思います。

そして最後に試した中硬巣板では、逆の結果に。自作の切り出しは切れが低下。対して何時もの切り出しは余り低下せず。以上の差は、白と青の特性から来る違い(青はタングステン・クロム配合により耐摩耗性が高い)とも考えられますが、その割には最初の天井巣板での準備では、双方切れが落ちていました。従って、中硬で研いでも前段階の硬口での結果が残存していたとも考え難い。やはり、相性と捉えるべきかと思われます。

今回はベタ研ぎ・同質の砥石と云う、違いが出難い条件でのテストでしたが、恐らく曲面・曲線を含む刃物の場合は更に影響が出易い筈です。研いでいる際に砥石の食い付き・滑走の程度が刃先の仕上がりに変化を及ぼすと感じるからです。その証左として、曲面の刃物を平面研ぎと同等の仕上がりにする事の困難さは、やって見れば容易に理解出来るでしょう。

ですので、私は平面研ぎにのみ向いている質の砥石は、余り選んで来ませんでした。飽くまでも平面・曲面の両方に向いている砥石(軟・中硬・硬口を問わず)が重視ですが、曲面でも相当に砥ぎ易い砥石であれば、平面もこなせる確率が高かったりします。私に選別を御依頼下さった方々には、実感された方も多いのでは無いでしょうか。天然の雑多さ・複雑さは、慣れるまでは得体が知れない・取っ付き難いと感じる物ですが、扱い方が分かる程に価値を認識し、手放せなくなります。昔から、「刃物は貸しても砥石は貸すな」と言われてきた意味を、身を持って理解できると思います。

 

 

 

 

 

頂いた砥石の試し研ぎ

 

亀岡のH様から御預かりしたレジノイドのダイヤを試そうとしていたのですが、少し前から電話にて譲渡の御話しを頂いていた天然砥石も到着。同時に試してみる事にしました。

天然の方は、日本各地で天然砥石の採掘場所を訪ねて資料や情報を集めていらっしゃる、埼玉の高野さんからの御厚意による物です。Facebookでは現在、北海道から東北あたりの砥石に関する記事をアップされるなど、精力的に情報を発信していらっしゃいます。因みに以前、武州合砥なども頂戴した経緯が有ります。

 

 

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夏屋砥です。岩手産でしたか、希少な砥石で私も小さいのを一つ持っていますが、砥石館の上野館長が仕入れる事が無ければ触る機会も無かったと思います。

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亀岡(八木)の砥石ですが、南丹の方(南丹タクシーの辺りとか)で見つけたとの事です。

 

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此方も亀岡で、八木だそうです。かなり硬い巣板で、先の戸前系と御近所とは見えません。

 

 

 

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見た目からも予想される粗目の砥粒ですが、かなり柔らか目ですので傷は比較的浅い印象です。しかし、その柔らかさの御蔭で新たな砥粒が次々と出て来る為、研磨力は粒度以上の物に成っています。

 

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比較対象として、寧ろ多数派かも知れない此方を。一見、天草の虎砥と見紛う外観ですが、私の手持ちは傷の浅さと若干の硬目を選んだので、砥面の緻密さ・滑走・平面維持のバランスが取れています。半面、砥粒続出・或いは極荒い砥粒による絶対的な研削力は持ち合わせていません。

上画像の夏屋砥と比べると其の通りの結果で、荒砥(傷浅目)と中砥(傷普通)な立ち位置と感じます。天然ならではの多様性故に、同じ産地の砥石による、段階的な研ぎが可能と言う訳です。

 

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上画像の戸前層と思しき砥石ですが、此方は正に中硬の合砥と言った風情ですね。研磨力・切れ共に標準的で扱い易い物。夏屋の直後に使うと幾分、研ぎ目の大きさに差が有り過ぎるので、間に細か目の青砥や中硬以下の巣板を挟むべきですが、ダイヤなどで泥を出して置けば充分に傷消しも可能です。

 

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此方は、石原さんの所で分けて貰った大平の硬目の白巣板を上回る位の硬さ。奥殿の硬口と遜色無い程に良く締まった巣板です。当然、上の戸前系と比べても段違いに刃金が光って来ますし、地金も明る目に仕上がります。滑走は適度で突っ張る事も無く、研磨力も硬さから考えれば妥当と思われます。

 

 

 

 

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前段の天然砥石のテストで使用した、同じ切り出しの裏を使ってダイヤの二種を試してみます。元々の目的が、和包丁の裏を仕上げる際に活躍してくれそうだと考えての事だったからです。

上画像は、何時もの状態(若狭の浅葱仕上げ)を示しており、其処からダイヤに当てて行きます。

 

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先ずは600番からです。かなり揃った研磨痕で砥粒も予想以上に細かい印象。しかし、研ぎ目の深さは結構な物ですね。当たりは幾分、弾力が有って使い易く便利そうです。平面の刃物の裏などに限定した使い方であれば、もう一段階の硬さが有っても良いかも知れませんが、此の硬さの万能性は捨て難いですね。

 

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次いで、20000番です。

 

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圧倒的に細かいのは当然ですし、光っても来るので仕上がりの綺麗さは別物。

 

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しかし、そこはダイヤですから傷の深さは相応のレベルと成ります。20000番の方は、当たりが硬い印象ですがダイヤとしても仕上げに当たるので、硬口レベルでも相応しいと言えるでしょう。其れでも、一段階硬目と柔らか目も気に成ってしまうのは悪い癖でしょうか(笑)

正直言って、レジンのダイヤは敬遠して来た嫌いが有りました。砥石層が薄い・電着ダイヤでの面直しが非推奨・高価格、の三拍子を気にしての事です。しかし、今回のレジンは研磨の性能と並んで共擦り(滑走感・砥面の適度な硬さ)による砥面の管理が容易な点に満足し、更に価格的にもH様の御協力によって現実的だと感じる事が出来ました。

共擦りに関しては、砥石層の厚さ・硬さ・砥粒の粒度も任意に選択が可能だと言うのが重要で、そうで無ければ叶わなかったと思います。

 

 

 

貴重な資料と成る天然砥石を御送り下さった高野様には、之まで同様に御世話に成りました。今後も従来の研究を続けて頂き、その一端なりとも勉強させて頂ければと思います。有難う御座いました。

 

H様には、新たな砥石との出会いと先々の橋渡しを齎して頂き、感謝しております。仕事(余り流行っていませんが)の精度・速さに貢献してくれるのは確実だと思われます。過度に頼る事は自戒したいと考えていますが、奥の手は幾ら有っても良いですから助かりそうです。

あと、御希望の砥石を求めて、若狭の田村山の選別に御一緒させて頂きますが、私としても久し振りですので楽しみです。御自身に最適な浅葱を見付ける御手伝いをと考えていますが、自分用にも小振りなのを一つ二つ、見付けられると良いなと。

 

 

 

 

 

おまけの研ぎ直しの様子

 

中硬の巣板・合砥

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千枚・八枚

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中山の中硬緑板

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奥殿の硬口茶色の巣板

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若狭の田村山

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試しに送って貰った人造砥石

 

数か月前ですが自宅からは幾分、離れているものの地元で様々なワークショップを開催されて来た会社の方から、研ぎ講習の声をかけて頂きました。予定している来月末に向けて打ち合わせ等を進めていた所、使用する砥石に関する問題が。余りに初心者向けの安価な物では、直ぐに摩耗したり(慣れない人には)サイズが不足な印象が。

刃物店の知人に相談した所、最近の人造砥石の傾向と言うか変更点などと共に、開発中の砥石が近日仕上がるので試してみるか?との事。それが届きましたので即日、試してみました。

 

 

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水分を吸収させ(未だ不足気味でしたが)、隅々に有る若干のバリの除去・平面向上を狙い、ダイヤで摺ったらテストです。

 

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相手は普段使いに一番、活躍中でもある試し研ぎ兼用の切り出し(そう言えば此方も同じ刃物店での購入)。研ぎ前の状態ですが、通常は最終に若狭の切り落としで仕上げています。

 

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外観の印象からは、キングハイパーに近いのかと思って居ましたが中々、確りしています。どちらかと言えば面の狂いが遅い方向性を狙った設計なのでしょう。

研磨力が有る上に硬目、という事で研ぎ目は浅くは無いですが、研承の緑の1000番よりは均一で控え目。ガンガン減らしたい時は前者を選択、それ程で無ければ此方で・・・との使い方が浮かびます。

 

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奥殿の巣板の切れっ端で傷を浅く

 

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中庸の戸前系(合いさ気味?)で更に

 

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八枚の切れっ端で追い込み

 

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中山の切れっ端で仕上げ。かなり前に採って来ていた物を最近、ハツって面を付けました。

 

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充分な仕上がりでしたが、通常の状態に戻す為に若狭の切り落としで最終仕上げ。

上のテストでは、何時も通りに天然砥石で段階的に仕上げて行きましたが、予定している講習では一般人の洋包丁向けの設定ですので、人造の仕上げ砥(研承の緑3000とか6000辺り)を併用するつもりです。

一応、天然も数個は持参の予定ですが、上画像までの様に不定形だったり砥面が底面と平行で無かったりは有りませんので御安心を(笑)。自分では性能が良ければ気にせず使っていますが(特に自前の刃物)、流石に初心者が大半と合っては直方体メインの品揃えで臨みます。

 

 

 

今回の人造砥石は、平面の刃物よりも包丁の刃金の厚みを狙う意図を明確に開発されたそうですが、普遍的な使い勝手も持ち合わせていて好感が持てました。少なくとも私の手持ちの中では性格が被っている物は無く、研ぎ講習云々は置いておいても幾つか手元に・・・との思いが。

仕上げ砥を使うのが前提との事で、その部分は(一般的な製品と比べれば)割り切った設計思想とも言えますが、単独の使用でも普通の人が普通に使う分には問題とは感じないかも知れません。研ぎの最後で圧力の加減や左右の合わせは必須でしょうけれど。

ただ話によると販売用と言うよりは、自身での使用・講習用らしいので、今回の当方の予定が確定したら少量だけ譲って貰えればと考えています。

 

 

 

 

 

嘗ての中山の作業小屋を見学

 

昨日は、嘗ての中山の採掘鉱周辺でクヌギの伐採に行くとの事で、加工場だった小屋の現存している方を見学して来ました。

 

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此方の小屋は無事ですが少し下には、水間府と其の横に佇む小屋が有りますが、倒木や土砂で傷んでいます。

 

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トロッコが引かれていたとの事でしたが、確かに実物が遺されていました。

 

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画像中央には、レールを曲げてカーブさせる道具も。トロッコの敷設・保守の道具類ですね。

 

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反対側には、トーチ類が。

 

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地面に残るレール。

 

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勿論、採掘されていた原石なども転がっていました。

 

 

 

サンプルとして二つ、採集して来ました。

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黄板として見ていましたが、砥面を見ると結構な範囲で紫が見られます。白や黄色に紫が混じる傾向が強いのは、奥殿の特徴かと感じていたのですが山が近い為か、似た外観を呈しています。

 

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砥いで見た感じは、流石に其れ程そっくりと迄は行きませんが仕上がりは近いかも知れません。

 

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巣板の方ですが此方も、驚く程に奥殿の天井巣板の超硬口とそっくりでした。

 

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研いでも、仕上がりと切れ方に類似点を感じます。

 

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おまけに、ダイヤで擦ると泥の色まで紫が混じってそっくりです。

 

 

 

序でに、伊那の削ろう会で月山さんから譲って貰った研承成、1000番です。

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可成、砥面が硬くて平面維持に優れます。其れに比して研磨力も備えており、特に平面の刃物は勿論、精度の高い裏押しや刃先形成としては包丁にも有難いです。

 

 

 

その後は、敢えて仕上げ砥で傷消しをして行きます。今回も、電柱を建て替える為に掘り起こした場所から選んで来たので、試し研ぎを兼ねてです。

赤ピン

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戸前系と言うより、並砥みたいです。

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緑板

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何れも、超仕上げとまでは行かない研磨力重視タイプでしたので、浅目とは言いいながら1000の傷でしたが消退して行きました。

 

 

 

 

 

伊那から三条・佐渡へ

 

少し前に、数日間を掛けて遠出をして来ました。長野の伊那を皮切りに、三条から佐渡へ。

 

伊那へは、削ろう会で出店するブースの手伝いで。

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月山さんと尚さんの砥石が並んでいます。天然の田村山と人造の研承が代表的ですが、研承の方は最新のシリーズである成の御披露目でもありました。

 

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此方は、高雄の砥石。何れも試し研ぎが可能で、興味のある方々に触って頂きました。

 

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伊那で合流した、宮崎兄弟と車を並べて新潟へ移動。弟の桶職人、光一氏は途中で下車。三条へは兄の春生氏と到着。

翌日は、藤虎のオープンファクトリーや三条鍛冶道場を見学。その後は日野浦刃物工房で鍛冶二人の顔合わせ。以前から話をして来た通り、司さんに春生さんを紹介出来ました。

御二方とも利器材で無く、鍛え地を自ら鍛造・鍛接する所も共通点であり、若い鍛冶職人として勉強熱心な春生さんには得る物が多いのではとの御節介でした。白紙の切れを理解している同士、というのも同様ですね。

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鍛冶道場には、特に過去の刃物類の展示が。

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数軒の刃物製造所の作品も。味方屋も幾つか。

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各種、研磨機や集塵機・コークス炉が並んでいます。

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日野浦さんに挨拶し、先ずは依頼されていた黒打ち三徳を確認して貰いました。

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其の後、春生さん持参の地金(錬鉄)と小だたらで作ったという玉鋼。

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更に、大昔に作られたと云う玉鋼も。実際に赤めたり叩いて試して貰いたかったとの事。

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あと、作って来ていた包丁も見て貰っていましたが、かなり高評価でした。

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最後は、フェリーで佐渡島へ。小木でたらい船の船頭をしている金子さんが迎えてくれ、その後も何くれと無く御世話に成りました。

到着すると、千石船の展示館で作業が出来る事になっていた様です。小木は、北前船の寄港地・造船所でも有ったそうで、海運で栄えていたのでしょう。

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近くの建物にも独特な物が。元、小学校と思われる役場として使われていた展示館と、宝物庫?と言うべきか重要な文書や道具類を納める収蔵庫。側面に幾つも、通気口と目される出っ張りが有りました。

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此の辺りは、伝統的に板屋根に石の重しが多い様です。

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海辺には小さな集落が有りますが、水路に沿って少し迷路みたいです。

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佐渡では、たらい船に乗れる場所が幾つか有りますが、景観・乗船時間・回遊距離で断トツなのは宿根木らしいです。

千数百年前?でしたか、火山の噴火で海底が盛り上がり、従来の船では底が閊える様に成ったのがたらい船の発祥とか。水深が浅く、入り組んだ入り江を移動するには予想以上に重宝しそうでした。速度も想像以上でしたし、漕ぎ手の他に三人以上の人間も乗れます。

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徳島の樽職人である原田師弟と宮崎兄弟、その御尊父・御母堂に加えてきしな屋の岸菜さんで分担をしつつ作業が進みます。父上は和船のプロジェクトを企画したり五島列島で自給自足を目指したりと、バイタリティー溢れる方ですが、それは作業中も遺憾なく発揮。私も今回のイベントに御招き頂けて感謝です。

先ずは、樽の底板・側面になる杉材の削りが続きます。

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正直台と言いましたか、材の方を乗せて動かす方式の大きな鉋です。

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鉋掛けは少し試す程度でしたが、それよりは役に立ったかなと思われるのは、此の竹釘作りです。日野浦さんの刃物も持参しました。他の方にも使って見て貰ったり。

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あと、タガを作る為に必要な竹も切りに向かいます。余り肉厚で無く、しなやかな質の竹であり昔から上物として出荷されて来たのも頷けるとか。

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私と春生さんは、此の辺りまでで帰途に就いたのですが、作業は三十石の樽の完成まで続けられます。無事の成功を祈ります。

今回、数日に渡る貴重な体験をさせて頂けて、本当に有難く思っております。御世話に成った皆さんに感謝致します。

 

 

 

 

 

一昨日の高雄で

 

一昨日は、午後から高雄に出掛けて来ました。午前は休憩にと思っていたのですが、ついつい三条から持ち帰った包丁の身を研いでしまいました。

 

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此れですね。真ん中は、完全な黒打ちですから切り刃(現状殆ど問題無し)を研ぐ迄は此の儘で。上の細いのも磨きで仕上げられつつあるので、刃線の修正と切り刃の研ぎがメインです。困ったのは下の、黒打ちから磨きへ移行しつつある柳。普通、機械が必要ですね。まあ、なるべく手研ぎで作業して来ましたので、大まかになら可能です。

 

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何とか、平の黒い皮膜を落としつつ平面度を上げつつ磨きました。仕上げは、ペーパーと研磨剤の後で天然砥石。

 

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細い方も、刃線と切り刃形状を大まかに修正。

 

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仮仕上げの状態です。

 

 

 

包丁の身を持って、高雄に来ました。すると、中岡さんから砥石が採れそうとの情報を確認しに行くけど?と。同行させて貰いました。

場所としては、裏大突までは行かない範囲の、蓮華谷周辺に付いてです。途中までは、砥石層に繋がるかに見える地層の様子も見えました。

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ですが、赤ピンに近いと見られる層は確認出来ましたが柔くて荒い物でした。

 

 

其の為も有って、斜面に目を転じると・・・

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下を見下ろした画像。

 

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分かり難いですが、見上げています。

 

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頂上まで上がりました。

 

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こう云った、倒木の下は確認に持って来いとか。

 

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見た目は赤ピン其の物なんですが・・・使えない場所だった様です。

 

 

 

気を取り直して、持参した包丁の身に(サンプルとして託されていた)柄を付けてみました。見本を示して貰った後は、出来るだけ自力でもやって見ました。

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あ、再度、平と切り刃を砥ぎましたので仕様は変わっています。此処から天然砥石で仕上げて行きます。

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取り置きの砥石を持って帰りました。

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奥殿 天井巣板カラスの中硬

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奥殿 天井巣板カラスのやや硬口

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奥殿 天井巣板の超硬口(の中でも少し軟)

北海道のS様用に挽いて貰った切り落としです。

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此の三個は、ほぼ本焼き専用です。もう一本の白巣板蓮華(大平だとか?)は、次回に回しました。

 

 

 

 

 

砥ぎ目の違いと錆

 

今回、人造と天然の砥石で其々、砥ぎ目の細かさに因る錆の違い(錆び易さ・取れ易さ)に付いて簡易なテストをしてみました。結果的には方法がいまいち適正で無かったのでしょうか、特に画像上では分かり難い内容には成ってしまいました。

ただ、実際に行なった立場では予想の検証や再確認には役立ちました。錆の除去に付いては普段の印象通りだったり、本格的に錆び始めると意外に外見的には大差なく見える、等。

 

 

 

先ずは、人造砥石の1000番・3000番・6000番・10000番で試料(日野浦さん提供の極軟鋼に白紙二号を鍛接した角棒を、手作業で切断した物)を其々、砥石の番手が反映される程度に研いで仕上げました。

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鋼の研ぎ肌。左から高番手に成っています。

 

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同じく左から高番手の、地金側。

 

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其れを、千鳥酢に漬けました。(ポッカレモンでは変化に乏しかったので此方にしましたが、少し効果的過ぎたかも知れません)

一目瞭然、左端の10000番仕上げが撥水効果を発揮しています。次の6000番も、表面に乗っている水分が少な目です。

此の儘では、普通に弾かれた部分の錆が出ないのは自明ですので、濡らしては静置、を数回繰り返しました。

 

 

 

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つまり途中からは共通して、表面を常に酢の膜が覆っている状態で10分放置した事に成ります。それだと流石に、錆びた状態の外観上に違いが少なくなってしまいました。

因みに、上画像は鋼側のテスト後です。それでも、僅かですが高番手の方が錆が薄く見えます。画像を撮り忘れた地金側に比べると、炭素量の所為でしょうか刃金側は錆の程度がやや酷い印象でした。

 

 

 

 

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次に、天然砥石各種でも砥いで調べてみました。左から奥殿の水浅葱(硬口)・中山の赤ピン(中硬)・奥殿巣板茶色(中硬)・やや軟らかい巣板です。

 

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刃金側のテスト前画像ですが、天然砥石の並び順と同じく左から水浅葱仕上げで以下、巣板までです。

 

 

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テスト後の状態。此方も、弾く効果を打ち消す様に酢を付けては置いてを繰り返したので、似た様な外観に。強いて言えば、砥ぎ目が細かいと目される方が赤い錆・逆側は黒い錆が強い気もします。

 

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上画像は、テスト後にジフ(クリームクレンザー)で軽く洗ってみた結果です。

 

 

 

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地金側、テスト後の画像です。

 

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此方もジフで。やはり刃金側よりも錆が弱い様で、より綺麗に成りました。

 

 

 

再度、天然砥石で研ぎ直しました。目的としては初期に研がれていた同じ砥石で、錆びの影響を何処まで落とせるか調べる為でした。

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再研磨の結果は同じ砥石では問題無く落とせて、番手としては一つ上の細かさの砥石でも可能でした。しかし、二つ上と成ると難しい事が分かりました。二つ上に関しては、下の二つのみのテストと成りましたが。

 

 

 

 

結論として薄っすら・物によってはハッキリ分かったのは、錆び難さの主要因が撥水性(錆びの要因となる成分を含んだ溶媒としての)にある事です。腐食を惹起する成分に触れ続けていれば、表面の研ぎ目の細かさでは大きな差が現れ難い事も観察できました。

砥ぎ肌が細かいと、其れが付着し難い・流れ去り易い・拭き取り易いので錆び難さに直結する訳ですね。それらが無い環境で付着し続けたり乾燥までしてしまえば効果は薄いと。

あと、鋼は軟鉄よりも錆が進行し易く(あらゆる製品でそうとまでは言えませんが)、其れを落とす際も比例して大変です。まあ一度錆びると硬い鋼材の方がが大変では有りますが。そして砥ぎ目を一度細かい番手まで仕上げて置けば、除去する際に荒い番手まで戻る必要性が低く成ります。

錆びに関して総合的に見ればやはり、砥ぎ目は荒いよりは細かい方が低減できる可能性が高いし、錆を除去する時も手間が省ける可能性が高いと考えられます。

 

 

 

 

 

昔の原石

 

昨日は、嘗て長四郎の屋号で流通していた原石に触れて来ました。中岡さんと二人で半日、叩いては割って選別をさせて貰えました。東物らしい平行な割れ方をする物が多くて分かり易いのですが、使える所を探しながら鍛えて行くと全部が全部製品に、とは行かないのも共通です。

 

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現場着

 

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選別中

 

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加工場着

 

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面を付けました

 

 

自分用にサンプルとして選びました。

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元からこの状態です。加工途中で止められたんでしょうが、過去の職人の作業が偲ばれて風情が有るとも言えます。

其の所為でか、やや幅広のレーザー型な感じに仕上がっています。砥いで見た感じは、戸前よりは並砥に近いかなと。

 

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此方はレーザーより二回りほど小さく、逆に厚みは充分に有ります。砥いで見た感触は戸前の様です。かなりナマズが入っていますし、下の方は紫一色の層がはっきり分かれて見えます。

 

 

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右は、面付け途中で割れた物を接着しました。今回の原石から取れるサイズ的には、大から小まで此の範囲が多く成りそうです。

 

 

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試し研ぎでは、研磨力・仕上がり共に先ず先ず。泥の質と出方が適度な滑りを齎してくれます。

 

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ナマズが入っていると、大抵は柔らかい物ですが逆にゴリゴリとした硬さを感じます。砥いで見ても、地金に傷が入り易いです。

翌日に、何時もの炭素鋼ペティ・ビクトリノックススーベニアで試しましたが、十分な切れに。実用的な角度で砥いでも、短めに確り固定した髪を切ったり削ったりは可能でした。

 

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此方は質的に均一ですが、やはり少し地金に傷が入り易いですね。どうも、柔らか目な割に砥粒の目が立っているので、平面の刃物には辛い部分が。面が崩れると当たりが変わるので、目が立っている砥粒で構成された砥面に対して、均等に当て続けるのが難しく成ります。

 

 

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其れでは、平面以外ではどうかと皮剥き包丁の刃先を砥いで見ました。青紙と思われる鋼材ですが、純炭素鋼のペティと同様に柔らか目の戸前系統としては充分な切れ味です。巣板に因るさっくりとした切れで無く、ついっと切れます。

 

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どうやら、特殊鋼に向いている可能性が有るのかとステンレスでもテスト。柔らか目に仕上げられたVG10(ファルクニーベン)ですが、不必要に返りを出す事も無く、結構シャキッとした刃先を得られます。

 

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序でに、やや硬目の熱処理のVG10でも。此方も同様、良く切れて軽い手応えに仕上がります。特筆すべきは砥ぐ際の難易度の低さで、通常の巣板ではステンレス洋包丁を鋭利に研げない人でも(尚且つ硬い砥石は扱い切れなくても)、巣板同様の気楽な研ぎ方で更に上の切れを目指せそうです。案外、此の辺りの特性が現代に於いては活躍の場に成るかも知れません。

 

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常用している切り出しは、また田村山で砥いでリセットしておきます。定期的に硬い砥石で平面維持・技術のチェックです。

 

 

 

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おまけですが、この砥石を譲って頂きました。奥殿本巣板巣無し羽二重黒紅葉と書いてあります。私は羽二重は持っていませんでしたし、殆ど試しても来ませんでした。理由は、余りに希少で弾数が無いので、複数を触って傾向を測れないのと、手に入れる機会の少なさ・手に入った物のレベル判断が困難な点です。

ですので、この砥石が羽二重として如何かは評価し切れませんが、単体としては可成り硬口。そして、黒蓮華の性質を色濃く感じます。しかし特に炭素鋼に錆を誘発する訳でも無く、普通に硬く細かい仕上げ砥の性能を発揮します。其の上、黒蓮華的効果(ステンレスの研磨が早く、砥粒から予想される細かさ以上の仕上がり)は健在です。

 

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少し前に、私が希望する寸法の砥石に付いて話し合う機会が有りました。普通の砥石は(30型・40型など)大工道具などを想定していると思しいので、包丁用としては、もう少し幅広な方が使い易いです。具体的には8~9cm幅で、逆に長さは18cmも有れば十分ですし、最悪15cm~16cmでも何とか成ります。

そんな内容を形にしてくれたとも言えるのが此の砥石で、丁度扱い易かったです。和・洋問わず包丁向きだと思います。まあ、試し研ぎは何時も通り切り出しだったのですが。私の好み(提案サイズ)を反映して頂き、有難う御座いました。

 

 

 

 

 

研ぎ目に付いて(表面処理)

 

数日前の事ですが、砥石によって砥ぎ分けた状態(砥ぎ肌)は実際の所、どう違うのか?効果の差は?其処の所を見せて欲しい。との御話しを頂きました。

実は数年前に、奈良の中小企業センターで検査をして貰うべく、日野浦さんにサンプル用の刃金(白二だったかと)+地金(極軟鋼)を鍛接・焼き入れ・焼き戻し迄した物(角棒)を作って貰いました。其れを切断し、鋼鉄面・軟鉄面の其々に付いて各種砥石で研磨した後、純粋や食塩水が噴霧された雰囲気中での腐食テストをして貰う予定でした。

結局はサンプル四つ(キングの1000・8000・巣板・カミソリ砥でしたか)を渡して、目の細かさの比較までは終えましたが、錆に付いてのテストは有耶無耶に。惜しい事でした。今回は其の時の残りの試料を思い出したので、御手製の耐食性実験風を試みたいと思います。

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当時、タングステンカーバイトの弓鋸を使って数時間。手作業で十等分にしたのが無駄にならずに良かったです。

 

 

 

ただ、其れとは別に実際の刃物の状態、つまり水はけと云うか撥水性の違いも見たいとの事でしたので、手持ちの包丁で試してみます。丁度、近く砥石館での講習を御希望の方からの持参要望も頂いている司作三徳。これの研ぎ直しも兼ねて、先ずは其方からです。

 

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初期状態は、地金が千枚仕上げ・刃金は赤ピン仕上げです。

 

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水道の蛇口の下で流水を当てましたが、特に振り払わずとも大半が流れ去ります。

切っ先カーブの辺りから切っ先にかけて、蛇行した線上に細く残っているのは鍛接線に沿っています。恐らく刃・地共に抵抗が小さいので、水分が付着し易いのは其所しか無かったのでしょう。

 

 

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次に、軽く巣板(やや粗い~中庸)で仕上げを変えてみました。刃金は直ちに巣板仕上げとまでは戻りませんが、地金の変化は顕著です。

 

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平に付着している水滴に違いは有りませんが、切り刃の部分は殆ど撥水効果が有りません。時間経過と共に、部分的には水分が移動して行きますが、広範囲で水に塗(まみ)れています。

 

 

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で、順当に行けば次はキングデラックス辺りに成る筈ですが、生憎と小割りが無い物で黒幕の1000番で。流石に研削力が有りますね。しかし、研削力と其れに相応しい?深さの傷が入るのに、可成り光り気味に成っても居ます。此れは研磨剤が削る方と光る方、双方に役割が振り分けられているのでしょう。

 

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そして光っていない1000番クラスよりも水はけが良いのかと言えば、余り変わらない様子。厳密に言えば、多少は差が有るかも知れませんが。少なくとも、上の巣板仕上げよりも水分の付着が強い印象です。(巣板よりも全面に均等に溜まり易い)

 

 

 

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工程を逆に戻って仕上げ研ぎ完了。今回は、刃金部分は先まで硬口の八枚仕上げです。

 

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錆の痕跡も益々軽減され、講習での披露に向けて更に整って来た様です。此れを含めた手持ち包丁達の外観や切れ味が、参考に成りましたら幸いです。

 

 

 

講習後は、最初の画像に有りました耐蝕テスト用試料の再研磨と御手製試験を予定しています。